分かりやすい、めまいの解説【原因不明の原因】

めまいは非常に複雑なメカニズムで起こります。病院での治療や薬が効かないこともあります。そのため、いつまでも治らなず苦しんでいる人たちがいます。ここではめまいについて、その発症原因やメカニズムについて分かりやすく解説いたします。

その前に、初めてめまいが起きた場合は、出来るだけ早く病院へ行きましょう。めまいの原因によっては生命に関わる場合があります。CTやMRIで異常がなければ生命に危険を及ぼす可能性はほとんどありません。だからまずは病院で生命に関わるめまいか、そうでないかを検査してもらってください。決して、いきなり整体やカイロプラクティックへ行こうとしないでください。その理由は、めまいを科学的に分析できる徒手療法家は非常に少ないからです。めまいの患者をみるためには、最低限ここに書いた知識が必要です。

めまいの分類

中枢性末梢性失神性心因性・原因不明
原因脳幹、小脳、大脳内耳(三半規管、耳石器)、前庭神経炎、固有感覚受容器血管、血圧、脳幹ストレス、精神、他のめまいの慢性化
症状回転性<非回転性
ふらふら酔っぱらったような感覚。浮いた感じ。
回転性>非回転性
ぐるぐる回っているような感覚。
慢性化すると非回転性のめまいになることも少なくない。
意識が飛びそうになる中枢性の症状に近い
病名例脳梗塞、脳腫瘍、小脳出血、などメニエール病、良性発作性頭位めまい症(BPPV)、起立性調節障害、迷走神経反射自律神経失調、持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)など
生命の危険度中-大

めまいは上の表のように分類することが出来ます。この中で生命の危険があるのは、中枢性と失神性のめまいです。この二つは病院での検査と治療が必要です。ただ、中枢性については、原因に書かれている場所の機能の問題でも起こります。機能の問題とは、そのものが持つ働きが正常ではないことです。この場合は、器質的な異常(脳梗塞・腫瘍・出血など)は見つからないので、生命の危険性もありません。

原因不明の理由

病院の検査で、めまいの原因が見つからなことがあります。上の表では、心因性の場合、原因不明とされることが多いです。これは、器質的な異常(脳梗塞・腫瘍・出血など)が見つからないということを示します。ですが、MRIやCTなどの画像検査以外の、平衡感覚に関する検査(バランス・聴覚・小脳機能)をすると、問題が見つかります(見つからないこともある)。この検査で問題があれば、その場所の機能に問題が起きていることが分かります。ただ、MRIやCTでは器質的な異常がないので、なぜその機能が問題を起こしているのかは分かりません。つまり、原因不明ということになります。

基本的に病院は、症状の原因を治すために、手術や投薬をするわけですが、原因がハッキリしないものに対しては、明確な治療を行うことが出来ません。そのため、原因不明のままになってしまいます。

では、そういった問題を治すためにどうすれば良いのでしょうか?

器質的な問題がなくても、実際にめまいは起きているわけです。めまいが起きるということは、間違いなく平衡感覚に関わる体の機能のどこかが正常に働いていません。その機能を改善することが出来れば、めまいは起こらなくなるはずです。

機能神経学による考え方

機能神経学では、体の構造や器質の問題に注目するのではなく、体(細胞や組織)が持つ機能に注目します。その機能を脳科学や神経生理学に基づいて分析し、調整やリハビリを行います。

例えば、右の前頭葉の脳梗塞で左半身が思い通りに動かせなくなっているとします。体を動かすという機能は、前頭葉だけではなく、大脳基底核、小脳と言うところも運動に関わります。前頭葉の機能は回復できないとしても、大脳基底核や小脳をうまく働かせることで、もしかしたら前頭葉の働きを補うことができ、左半身の動きに変化が起きるかもしれません。このように、左半身を動かす「機能」に注目します。

次に、めまいに関わる体の機能について説明していきます。

感覚のミスマッチがめまいを引き起こす

感じていることと、現実に起きている事との間で違いが生じると、めまいが起こります。他にも、疲労感や不安や恐怖を抱くことがあります。

このミスマッチは、前庭系という平衡感覚に関わる神経システムのどこかに問題が起きていると起こります。前庭系とは脳幹にある前庭神経核を介する神経システムのことです。

主に、視覚・固有感覚・前庭感覚。そして、これらの情報を中継することで運動や姿勢制御を行う小脳、全ての情報を知覚する大脳皮質。これらの機能のどこかに問題が起きると、感覚にミスマッチが生まれ、めまいが起きる可能性があります。

視覚

視覚

目から入ってくる映像(情報)。

固有感覚

固有感覚

筋肉や関節からの情報。関節の角度や動いている方向を、小脳を介して脳へ伝えています。

聴覚

前庭感覚

三半規管、耳石器からの情報。三半規管は頭の回転方向、耳石器は水平・垂直方向の情報を脳へ伝えています。

例えば、車酔いをする人は、自分が動いていないのに、風景が動くため、脳が視覚・前庭感覚(加速度刺激)と体(固有感覚)の情報をうまく統合することが出来ず、気分が悪くなります。

感覚のミスマッチを起こす要因

眼球運動・三半規管と耳石器・内耳神経(第Ⅷ脳神経)・固有感覚・大脳皮質(運動野・感覚野・頭頂連合野・視覚野など)・小脳

具体的に個別に説明していきます。

【眼球運動】

目の動きは、視界の情報を脳に伝えるために重要です。そのため、次の目の動きが正確に行えなければなりません。

・固視:頭を動かさず、ターゲットをジッと見続ける。

・追従性眼球運動(パースート):頭を動かさず、動いているターゲットを目で追う。

・衝動性眼球運動(サッケード):頭を動かさず、見ているターゲットから別のターゲットへ素早く視線を切り替える。

・前庭動眼反射(VOR):目の前のターゲットを見たまま、頭を左右・上下に素早く振っても、そのターゲットを見続ける。

・VORキャンセレーション:動いているターゲットの動きに合わせ、頭を動かして常に正面にターゲットを捉える。

これらの眼球運動が目的に応じて、静止時や動作時に正確に行われなければ、視界の動きとのミスマッチが生まれ、フラフラ、フワフワしためまい感が起こります。例えば、歩いているときは、正面を見た状態で頭が上下に動いています。ですが視界は上下にブレることはありません。これはVORの働きによって視線がブレないように、頭の動きとは反対側に眼球を動かしているからです。もし歩行時にVORが機能していないと、手振れ補正の付いていないカメラで撮った映像を見ているかのように、歩行に合わせて視界が上下に動いてしまい、目が回ってしまいます。

以前書いた記事「スマホを見ていると【めまい】が起きるメカニズム」は追従性眼球運動と衝動性眼球運動の組み合わせになります。(ただ、視運動性眼振は反射(無意識)で起こるのに対して、追従性眼球運動と衝動性眼球運動は意識的に目を動かすので神経の活動する場所に少し違いがあります。)

【眼球運動に影響を与える問題】

器質的な問題:大脳皮質・小脳・脳幹の腫瘍や出血、首の怪我 など
機能的な問題:大脳皮質・小脳・脳幹・三半規管・自律神経・首の問題 など

【三半規管と耳石器、および内耳神経(第Ⅷ脳神経)】

三半規管(前半規管・後半規管・外側半規管)は頭の回転方向、耳石器は垂直・水平方向の動きを感じ取とります。そして、その情報は内耳神経を伝わって脳へ送られます。

三半規管

三半規管への過剰な刺激は、頭が回転しているという誤情報に繋がります。良性発作性頭位めまい症(BPPV)は、耳石器から剥がれ落ちた石が、半規管のいずれかに入り込み、それが頭を動かすことで転がり、半規管を刺激し、頭が回転していると誤認して、めまいが起こります。

三半規管と目は連動して働きます。そのため半規管の一部が活性化すると、意志とは関係なく目が動きます。これが眼球運動に問題を起こす原因の一つであり、BPPVで眼振が起きる理由です。BPPVの8~9割は後半規管に耳石が入り込んで、めまいが起こります。そのため、頭を左右どちらかの後方へ動かすと、めまいが起こります。

【半規管の活動と頭位と眼球位置】

活動している半規管頭位眼球位置

右前半規管

右前

右上

右後半規管

右後

右下

右外側半規管



左前半規管

左前

右上

左後半規管

左後

右下

左外側半規管


【三半規管と耳石器、および内耳神経に影響を与える問題】

器質的な問題:BPPV・メニエール病・前庭神経炎 など
機能的な問題:三半規管・固有感覚・眼球運動・自律神経・首の問題 など

【固有感覚】

固有感覚とは関節の位置や動きに関する情報のことです。この情報を感じ取るためのセンサー(固有受容器)が筋肉や腱に付いています。体を動かすと、このセンサーが働き、自分の体の位置や動きを常に脳へ情報を送ります。この情報があることで、目を閉じた状態でも、イメージ通りに体を動かすことが可能です。

もし、このセンサーの働きが低下した状態で目を閉じて、体を動かすと、どのくらい体を動かしているか認識することが出来なくなります。例えば、目を閉じで腕を90度前に挙げようとしても、腕を動かしているときの腕の位置がどこか認識できないので、挙げすぎてしまったり、低すぎたりしてしまいます。

三半規管のところでも言いましたが、頭が動くと三半規管が活性化します。だから固有感覚に問題が起きて、頭の位置が動いてしまうと三半規管が活性化します。この固有感覚の問題で、めまいを引き起こす可能性が高い部位は、足と首です。なぜかというと、例えば、足の位置がどこにあるか認識できないと、体を安定させることが出来ずふらついてしまいます。これは柔らかい床の上で目を閉じて立つことで、足の固有感覚の低下によるふらつきを体験することが出来ます。首の固有感覚の問題も同様に頭が動いてしまい、三半規管に刺激が入ります。この時、固有感覚で感じている頭(体)の位置と、三半規管が感じている頭(体)にミスマッチが起こるので、めまいを起こします。しかし、目を開けていると視覚情報から頭(体)の傾きを認識することが出来るので、めまいは起きません。固有感覚の問題によるめまいは、目を閉じた時に顕著に現れます。

【固有感覚に影響を与える問題】

器質的な問題:大脳皮質・小脳・脳幹・脊髄の腫瘍や出血、怪我(骨折や捻挫・ムチ打ち・骨格の歪み など)による固有感覚の問題 など
機能的な問題:大脳皮質・固有感覚(怪我の後遺症 など)・脊髄・小脳・自律神経 など

【大脳皮質・小脳】

大脳皮質には運動野と言う場所があり、そこから体を動かす指令が出ます。大脳皮質からの運動命令は大雑把なもの(例えば「腕を挙げる」と言った感じ)なので、その動きを正確にするためには(例えば「腕を90度挙げる」)、固有感覚からの関節の位置と動きに関する情報が必要になります。その情報を小脳を中継して感覚野に送り、そこからまた運動野にフィードバックして、「もう少し動かす」「少し戻す」と言うように動きを調整し、イメージ通りの正確な動作になります。

だから、大脳皮質や小脳に問題があると正確に体を動かすことが出来なくなり、固有感覚のところにも書いた問題に繋がります。また、この運動調整は眼球を動かす際にも使う機能なので、眼球運動に書いた問題にも繋がります。

【大脳皮質・小脳に影響を与える問題】

器質的な問題:大脳皮質・小脳・脳幹・脊髄の腫瘍や出血、怪我(骨折や捻挫・ムチ打ちなど)による固有感覚の問題 など
機能的な問題:大脳皮質・固有感覚(怪我の後遺症 など)・脊髄・小脳・自律神経 など

【自律神経】

自律神経の問題でめまいが起きる理由は、脳への血流の低下が主な原因です。血圧は自律神経の働きによって調整されています。その働きが低下することによって、起き上がった時、姿勢を変化させたとき、頭を動かしたときなどに血圧が下がってしまい、脳へ血液を送ることが出来なくなってしまいます。すると、脳の機能が低下してしまい、めまいが起こります。起立性調節障害。

なぜ、前庭系がちゃんと機能しなくなるのか?

前庭系がちゃんと機能しなくなる理由は、それぞれの項目の下部に書いた「器質的な問題・機能的な問題」で起こりますが、以下のようなことでも起こります。その中には日常生活の何気ないようなことも原因になることがあります。

【例1】
最初は良性発作性頭位めまい症(BPPV)やメニエール病、貧血や自律神経失調で脳へ血がいかない、など、実際に器質的な問題でめまいが発症し、それが長く続くと、なんとかそれに適応しようとして、機能を変化させて補正します。一般的にこれを慢性化と言います。その後、器質的な問題が解決したとしても、変化した機能がそのまま残るため、今度はそれがめまいの原因になります。BPPVは回転性のめまいですが、慢性化することでフワフワ・フラフラと言ったような非回転性のめまいに変わることはよくあります。

【例2】
ストレスなどにより、全体的に脳や体の機能が低下することで、平衡感覚に関わる機能も低下し、めまいが起こります。

【例3】
頭の動かし方、目の動きに偏りがある場合。テレビやパソコンの画面を見るとき、常に右を向く。しょっちゅうスマホの画面をスクロールする。頭を動かす方向に偏りがあったり、眼球をたくさん動かしたりすることで、固有感覚や三半規管、眼球運動が疲労し、機能が低下し、めまいを起こす。

【例4】
地震などのトラウマで、何かあるとその時のことを思いだしてしまい、実際は揺れていないのに体が揺れているように錯覚してしまう。

【例5】
過去の足の捻挫やムチ打ちで、固有感覚の治療を行わず放置してしまったものが慢性化して徐々にバランスを崩す。何十年も前の怪我が、めまいを引き起こすこともあります。

めまいを放置していると、原因の複雑化を招きます。

全ては繋がっている

もう一度書きますが、「大脳皮質や小脳に問題があると正確に体を動かすことが出来なくなり、固有感覚のところにも書いた問題に繋がります。また、この運動調整は眼球を動かす際にも使う機能なので、眼球運動に書いた問題にも繋がります。」

つまり、上で説明した、眼球運動・三半規管と耳石器・内耳神経(第Ⅷ脳神経)・固有感覚・大脳皮質(運動野・感覚野・頭頂連合野・視覚野など)・小脳のどこに問題が起きたとしても、めまいが起こる可能性がります。だから、めまいを治すためには、問題が起きているところを検査で見つけ出し、その機能を改善させてあげなければなりません。

機能神経学による、めまいの分析方法

上で説明したように、様々な検査をして、前庭系の問題を起こしている場所を推察していきます。問題部位の推察の仕方を少しだけ簡単に説明します。

例えば、眼球の動きを検査したら、左へのパースートがうまく出来なかったとします。左へのパースートは左の頭頂葉から脳幹への神経のネットワークを使って、眼球を左に動かします。だから、この検査の段階では、頭頂葉と脳幹のどちらか、あるいは両方に問題が起きている可能性が考えられます。

次にVORを行います。VORは、ターゲットから視線を外さないようにして、頭を右に動かします。つまり、眼球はパースートと同様、左に動かすことになります。もしこのVORでターゲットから視線を外さず頭を動かすことが出来た場合、目を左に動かすことは問題なく出来るということが分かります。VORでは三半規管から脳幹への神経のネットワークを使って、眼球を左に動かします。

ここから、パースートとVORの二つの結果を組み合わせて考えます。パースートでは頭頂葉と脳幹を使い、VORでは三半規管と脳幹を使っています。VORが正常に働いているということは、脳幹は機能しているので、問題が起きているとするなら頭頂葉の可能性が高いということが推察できます。そして、今度は別の方法で頭頂葉を検査して、仮説が正しいか確かめていきます。

もし、パースートもVORも両方とも出来なかった場合は、脳幹に問題がある可能性が考えられます。そして、他の脳幹の検査を行って、仮説が正しいか確かめていきます。

このように、いくつも検査を積み重ねることで問題が起きている場所の信憑性を高めていきます。あとは実際にその場所に何らかのアプローチを行って、改善がみられるかトライ&エラーを繰り返し、最も効果的な対策を見つけ出す、というやり方をします。

それでもまずは病院へ

めまいの患者を診るためにはたくさんの知識が必要です。当院のようにカイロプラクティックオフィスで対応できるところもありますが、徒手療法の業界(整体・カイロプラクティック・接骨院・鍼灸院など)では、「めまいの原因は首」という短絡的な考え方をする人が少なくありません。もし、首(固有感覚)に問題がない人に、首(固有感覚)へのアプローチをしてしまった場合、前述したように、全ては繋がっているので、その刺激によって他の感覚が、さらに狂ってしまう可能性があります。だから、一番最初に言ったように、めまいが起きたらまず病院へ行ってください。間違っても、最初に整体やカイロプラクティックへは行かないでください。

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