猫背や側弯症はストレッチや骨格矯正だけでは治りません

猫背や側弯症で悩んでいる人はたくさんいます。肩こりや腰痛の原因が猫背や側弯症ということもあります。

ネットでその治し方を調べると、いろいろなストレッチや運動が出てきます。ですが、猫背や側弯症を治すために最も肝心な情報は、ほぼ出てきません。出てくる情報のほとんどが筋肉や関節のストレッチや、日常生活(スマホやPC使用時など)の姿勢に関するものばかりです。

実は、猫背や側弯症を治すのに、筋肉と関節の調整だけだと、ほとんどの場合が失敗します。もちろん、筋肉の問題や骨格の歪みを改善することも大切です。ですが、それだけでは不足しているものがあります。

不足しているものとは、平衡感覚器や姿勢制御、筋肉の張りの調整などを無意識で行ってくれている脳と神経の働きです。実は筋肉の問題や骨格の歪みの問題すら、脳と神経の異常で起こってしまいます。その理由について分かりやすく説明します。

さらに脳の発達に関わる原始反射の残存によって起こる側弯についても解説します。

姿勢は無意識に制御されている

みなさんは、歩いている時、家事をしている時、食事をしている時に姿勢を意識していますか?おそらく意識している人はほとんどいないと思います。なぜなら姿勢反射によって、無意識に姿勢が制御されているからです。

これは、耳の奥にある前庭器(三半規管と耳石器)が頭の傾きや動いている方向を感知したり、筋肉や関節に付いている固有感覚受容器というセンサーが関節の位置や筋肉の長さを感知して、情報を脳へ送ります。そして、その情報をもとに無意識に姿勢をコントロールしてくれています。

例えば、テーブルの上にあるコップを取るために手を伸ばします。手を伸ばすということは、重心がそちらに傾きます。もし、姿勢制御が働かなければ、前に倒れてしまいます。ですが、倒れることなくコップを取ることが出来ます。この時に倒れないように姿勢を意識している人は、まずいないと思います(お酒を飲んでいたり、パーキンソン病などの姿勢制御に問題が起きている場合は除く)。この動作を行っている時に、どんなことが体と脳で行われているかと言うと、先ほど言った前庭器、そして固有感覚受容器が、頭や肩や腰の動きを脳へ伝えて、脳からは前に倒れないように、背中や足の後ろ側の筋肉を働かせて、重心が前に行き過ぎないように指令を出して姿勢をコントロールします。

このように姿勢制御とは、重力に逆らって真っ直ぐに立つためのシステムです。

猫背や側弯症は、頭や肩、腕、腰などの真っ直ぐに立つためのシステムが、正常に働かなくなっている状態とも言えます。

姿勢を感知するセンサー

姿勢の制御は、先ほど言ったセンサーからの情報をもとに行われています。だから、センサーは正確な情報を感じ取り、脳へ伝えてくれなければ困ります。もし頭や腰の傾いている角度を間違って脳へ送ったらどうなるでしょう。脳は間違った情報をもとに姿勢の制御を行うことになります。猫背や側弯症の人のセンサーは、ほとんどの場合、大なり小なり狂いが生じています。そして、狂っている期間が長くなれば長くなるほど、その狂いは大きくなる傾向にあります。

センサーが狂っている状態で良い姿勢を意識しても、その姿勢は良い姿勢ではありません。

例えるなら、精度がマイナス5kgで表示されてしまう、壊れた体重計で、壊れていると知らずに体重を測っているようなものです。体重計に55kgと表示されれば、それを信じますよね。ですが、体重計は精度が狂っているので、実際は60kgだということに気づきません。もしかしたら、他人からは「太ったね」と言われてしまうかもしれません。ですが、体重を測っても55kgと表示されるから、本人は太ったという認識がもてません。これは姿勢にも当てはまります。センサーが狂っている状態では、自分は良い姿勢をしているつもりでも、他人からは「猫背だね」と言われてしまうのと同じです。

つまり、頭のセンサーが5°狂っていたら、あなたが真っ直ぐだと思って意識的にした姿勢も、頭は5°傾いてしまいます。頭が傾いているということは首の骨(頚椎)が歪みます。すると、首の筋肉の張り方も左右で違ってきます。この場合、まず初めに治さなければならないのは、狂ったセンサーです。センサーが狂ったままで筋肉や関節を整えても、脳や神経はその状態を異常と認識してしまいます。なぜなら、頭が5°傾いた状態を、脳は正常と認識してしまっているからです。

三半規管と姿勢

センサーの一つである三半規管と姿勢について少し詳しく解説します。

三半規管は耳の奥にあって、頭の角度や回転している方向を感知しています。この三半規管は、頭の前方への傾きを感知している前半規管、後方への傾きを感知している後半規管、横の回転を感知している外側半規管というのが左右それぞれにあります。

三半規管
三半規管

この三半規管が左右でバランスを取っていれば、頭を真っすぐに保つことが出来ます。ですが、もし、右側の前半規管の活動が強くなると頭が右の前に傾いてきます。しかし自分でこの感覚の異常に気付くことは簡単ではありません。ただ、体の傾きが大きくなりすぎてしまうと、目で見ている風景も傾いてきてしまうので、そこで体の歪みを認識します。

頭が傾きだすと、その頭の重さに引っ張られて背骨の腰の部分が曲がってきます。そして、その状態が長く続くと腰の側弯が出来上がります。先ほど言ったように傾きが大きくなると、視界が傾いてきて体の歪みを自覚するので、今度は胸の部分の背骨を反対側に曲げて、視線の水平を保とうとします。これで胸の部分の側弯が出来上がります。

この現象は実際にマウスやカエルを使った実験で確認されています。

三半規管の働きを調べる

三半規管の働きに左右差がないかチェックしてみましょう。

少し広い場所で立ってください。そして、目をつぶって、その場で足踏みを50歩してみてください。50歩足踏みしたら、目を開けで、自分の位置を確認してみてください。スタートした位置からどちらかに回転していたら、その回転した方向の三半規管の働きが低下している可能性があります。

この方法は「福田の足踏みテスト」と呼ばれるもので、めまいなどの平衡感覚の検査に使われます。ただし、これは三半規管だけでなく、小脳や骨格の歪みの影響もうけるため、このテストだけで三半規管の状態が100%正しく分かるわけではありません。あくまで複数行う検査の一つになります。

固有感覚受容器と姿勢

次に、もう一つのセンサーの固有感覚受容器と姿勢について解説します。

固有感覚受容器にはいくつか種類があり、触・圧・温度・痛・振動・筋肉の長さや張りを感じ取っています。その中で、筋肉にある筋紡錘というセンサーが、筋肉の張りや関節の位置を脳へ伝えています。

例えば、背中の筋肉にあるこのセンサーは、背中の筋肉の張りや背骨の位置を脳へ伝えています。背骨が曲がれば、背骨のどの部分がどの方向へ曲がっているのか脳へ伝え、背骨が捻じれたら、背骨のどの部分がどの方向へ捻じれているのか脳へ伝えます。その情報によって、今の姿勢がどうなっているか認識します。背骨が曲がっていることが分かれば、脳は姿勢を正す指令を出すことが出来ます。

しかし、このセンサーが壊れていて、筋肉と関節の状態を正確に伝えることが出来ないとどうなるでしょうか?

センサーから伝わってくる情報が正しくないので、背骨が曲がっていてもそれを認識することが出来ません。曲がっていると認識していないので、脳は背骨を真っすぐに戻す指令を出すことが出来ません。

認識することが重要

センサーが狂うと姿勢が崩れてしまうことが分かったら、今度はそのセンサーの狂いを治すにはどうすれば考えてみましょう。

上で壊れた体重計に例えましたが、その体重計で本当の体重を知るためにはどうすれば良いでしょうか?

答えは簡単です。マイナス5kgで表示される体重計だということを知ればいいだけです。そうすれば対策が取れます。その対策方法は主に次の二つです。

1.体重を測った後、表示された体重から5kgを引く。
2.体重計を治す。

これを姿勢に変えて考えると

1.良い姿勢を意識した後、そこからさらに頭を5°傾ける。
2.センサーを治す。

1の場合、常に5°傾けるということを意識していないと良い姿勢になりません。ですが、「姿勢は無意識に制御される」と言いました。これでは常に姿勢に気を使わなければなりません。気を使うということは、そこに神経を使うことになります。すると、他の作業の能力が低下してしまいます。例えば、勉強する時に、常に姿勢に意識を使っていたらどうなりますか?勉強に集中できなくなりますよね。だから、やはり姿勢は無意識に制御されていなければなりません。そう考えると、姿勢を治すには2の「センサーを治す」が正しい選択肢になります。

猫背や側弯症を治すには、まずは姿勢制御に使われるセンサーに狂いがないか知ることが大切です。

センサーの治し方の例

当院では、モーションガイダンスと言う機器を使います。体にレーザーポイントをつけて、自分の体をどのくらいイメージ通りにコントロールできているかチェックします。

平衡感覚訓練

これにより自分の姿勢や動きを視覚化でき、関節を正しい位置に戻したり、正しい動きを行うことでセンサーの修復を行います。

ここまでは、前庭器と固有感覚受容器という、姿勢を感じ取るセンサーについて解説しました。この問題が猫背や側弯症などの姿勢に影響を与えています。しかし、コレでもまだ猫背や側弯症を治すには足りないことがあります。次に筋肉の張りを調整する機能について解説します。

筋肉の張りを調整している脳

今までに説明したセンサーが正常でも、筋肉の張りによっても姿勢は変化します。例えば、胸の筋肉が強く縮めば、肩を内側に丸めてきてしまい猫背になります。このとき、センサーの異常が起きていなければ、猫背になっていることを認識できますが、丸まった肩を伸ばそうとするには、背中側の筋肉を使わなければなりません。ですが、常に筋肉を使って胸を張っていたら疲れてしまいますよね。

もし、この筋肉の縮んでいる理由が、疲労によるものであれば、ストレッチやマッサージで筋肉を緩めれば問題は解決します。しかし、慢性的な猫背や側弯症で悩んでいる人は、ほとんどの場合が、それでは良くなりません。もしそれでよくなっていれば、そんなに悩むこともないはずです。

実は筋肉は、力を入れなくても一定の張りを保っています。人が立った姿勢で、前にも後ろにも倒れずにいられるのは、お腹側と背中側の筋肉が程よく張って、バランスを取っているためです。この筋肉の張りのバランスの調整は無意識に行われています。ここでもやはり「無意識」と言うことが重要になります。

この筋肉の張りに重要な場所は、大脳の運動野、脳幹の橋延髄網様体(PMRF)、そして小脳です。

これらの働きによって、常に筋肉の張りを無意識にコントロールしてくれています。もしこれらのどこかに問題があると、筋肉の張りが強くなったり弱くなったりしてしまいます。先ほども言ったように、体の前後の筋肉が程よく張ってくれて、前にも後ろにも倒れずにいられるわけですが、このバランスが崩れてしまうと、姿勢も崩れてしまいます。

猫背と自律神経

運動野、PMRF、小脳の中で、PMRFの問題は特に猫背と関連しています。

PMRFとは、脳幹の橋と延髄にある神経細胞の集まりのことです。この神経細胞の集まりには次の働きがあります。胸神経6番(T6)より上の屈筋群の抑制、T6より下の伸筋群の抑制、同側の痛みの抑制、そして同側の交感神経の抑制です。

T6より上の屈筋群とは、首の前の筋肉、胸の筋肉、腕の前側の筋肉です。これら筋肉の張りを抑えられないということなので、より筋肉が硬くなります。そうすると、首が前に出て、肩が丸まり、肘が曲がった姿勢になります。つまり典型的な猫背です。

T6より下の伸筋群とは、お尻、太ももの裏、太ももの外側の筋肉です。これら筋肉の張りを抑えられないということなので、骨盤が後ろに倒れて、膝が曲がり、つま先が外側を向きます。上の姿勢と合わせると、スウェイバックした姿勢になります。

つまりPMRFの働きが低下してしまうと、自然と猫背の姿勢になってしまいます。この問題だけでも肩こりや腰痛になります。さらにPMRFは痛みの抑制や交感神経の抑制もしているので、痛みに敏感になったり、自律神経の乱れも起こすかもしれません。

だから、猫背に加えて、自律神経の問題がある場合、この部分の働きが関わっている可能性があります。

PMRFの働きを調べるには?

PMRFの状態を調べるには、PMRFが持つ働きと、橋と延髄のPMRF以外の働きを調べます。具体的には、、、

  • PMRFが低下していると思わる半身の、交感神経が過剰に働いていないかどうか。
  • PMRFが低下していると思わる半身が、痛みに過敏になっていないかどうか。
  • PMRFが低下していると思わる半身の、T6より上の屈筋群と、T6より下の伸筋群が硬くなっていないかどうか。
  • 橋と延髄にある様々な神経の働きに低下が起きているかどうか。

橋と延髄にある機能が低下していて、さらにPMRFの機能も低下していれば、ここに問題が起きている可能性が高くなります。このようなことを検査して、総合して判断します。どれか一つだけで判断することはありません。

脊椎ガラント反射(原始反射)の残存と側弯

脊椎ガラント反射(Spinal Galant Reflex)とは原始反射の一つです。原始反射は赤ちゃん(正確には胎児の頃から)が生きていくために備わっている反射です。これは成長していく過程で神経系が統合されて消失していきます(ほとんどが生後6ヶ月ほどで統合され消失)。しかし、成長してもこれらの反射が残ってしまうことがあります。

反射とは、刺激によって無意識に起こる体の反応です。

この脊椎ガラント反射は背中の腰のあたりを触れると、お尻が横にクイッと動いてしまう反射です。この反射が残っていると、腰に何かが振れることで、お尻が意識とは関係なく横に動いてしまい、腰椎に側弯が起こります。例えば、子供が学校の授業の時に椅子の背もたれに腰が振れたり、服が腰に擦れることで反射が起こってしまい、腰椎が曲がってしまうということが起こります。

このように脊椎ガラント反射の残存は側弯に影響すると言われています。そのため、もしこの反射が残っていた場合、反射が起こらないようにしてあげなければなりません。それには特定のエクササイズが効果的です。

まとめ

猫背や側弯症で筋肉や骨格だけを調整しても、一時的に良くなるだけで、あまり長くは続きません。その理由は、ここで解説したセンサーや脳の問題が残っているからです。また、何をしても肩こりや腰痛が治らないという場合も、これらの問題が関わっている可能性があります。

今回の内容は、ほとんどの人が、初めて聞く内容だったかもしれません。なぜなら、整体やカイロプラクティックでここまでチェックする治療院は少ないからです。しかし、これを理解していないと、本当の意味での姿勢改善はできません。

もし、猫背や側弯症で悩んでいて、どこに行っても良くならなくて諦めていた方がいましたら、一度、中央林間カイロプラクティックオフィスにご相談ください。

猫背や側弯症はストレッチや骨格矯正だけでは治りません” に対して1件のコメントがあります。

  1. 岡本 より:

    はじめまして。側弯とストレートネックがあり自律神経緊張で悩んでいます。
    単純にストレッチのみでは治らないと私も思います。
    お伺いして治療をして頂けると幸いです。よろしくお願いいたします。

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