【整体】ボキボキ矯正が体に与える影響

整体やカイロプラクティックと聞くと、ボキボキ矯正するイメージを持っている人も多いと思います。怖いと感じる人もいれば、気持ちいいからどんどんやって、と思っている人もいます。

では、ボキボキ矯正を受けると体内でどんな反応が起こっているかご存じですか?

多くの人が「骨を動かして歪みを治している」と思っているのではないでしょうか。もし施術者がこれだけしか説明できないようでしたらハッキリ言って勉強不足です。分かりやすく説明するために、そう言っている可能性もありますが、これではあまりにも曖昧で大雑把過ぎます。間違いではないですが、正しいとは言えません。

後ほど詳しく説明しますが、これは「骨を動かす」ことで歪みが改善するのではなく、「骨が動くほどの強い刺激」で、生理的な反応が誘発されて歪みが整うことがあります。つまり、骨を動かすことが目的ではなく、生理的反応を起こさせることが目的になります。これを理解していないと、歪みが改善しなかったり、逆に体を壊してしまうこともあります。

ボキボキ矯正を受けることで体に起きる影響を神経生理学に基づいて科学的に説明します。またその危険性についても説明します。

ボキボキ矯正

矯正する場所は?

矯正する場所は関節です。関節とは骨と骨の連結部分のことです。背骨や骨盤だけでなく、手や足の関節も矯正することがあります。関節以外の場所を矯正することはありません。もし関節以外のところを矯正してボキボキっと音が鳴ったのなら、それは骨が折れた音です。

そして、その矯正する関節は、どこを矯正しても良いわけではありません。矯正して良い関節は、周辺の腱や靭帯、筋肉などの軟部組織が硬くなってしまって動きが悪くなっている関節です。

もし柔軟性がある関節を矯正せいてしまうと、関節を壊してしまう危険性があります。そうして関節が壊されてしまった場合、2度と正常な状態には戻らない可能性が高いです。なぜかというと腱や靭帯は一度伸ばされてしまうと、元の長さに戻ることはほぼありません。そのため関節ならどこを矯正してもいいわけではありません。

ボキボキ音の正体

このボキボキ音は骨が鳴っているのではありません。関節は関節包という袋に包まれていて、その中には滑液という液体が入っています(これが潤滑剤になり動きが滑らかになります)。この関節包が矯正によって引き伸ばされると中の圧力が陰圧になり、液体が気化、つまり泡になります。この時に音が鳴ります。これをキャビテーションと言います。

一度気化した泡は、しばらく時間が経つと再び液体に溶け込みます。そのため一度音が鳴った関節は、すぐにもう一度矯正しても音はなりませんが、しばらくすると音が鳴るようになります。

ボキボキ音と効果は関係ない

実はこの音は矯正の効果とは関係がありません。

音が鳴らないと「失敗した」と思ってしまう人も多いと思いますが、矯正の目的は音を鳴らすことではなく、関節に強い刺激を与えることなんです。その際に関節が引き伸ばされるので音が鳴ってしまうことがあります。だから音はあくまで副次的なものになります。

ボキボキ矯正の効果は3つ

ボキボキ矯正することによって体に与える影響は大きく3つあります。一つは関節可動域の拡大、あとの二つは固有感覚受容器への刺激による筋肉の弛緩と姿勢の変化です。

関節可動域の拡大

先ほど言ったように矯正する関節は「動きが悪くなっている関節」です。その関節の周辺は血液や体液の流れが悪くなっているために、腱や靭帯が固まってしまって関節の動きが悪くなっています。

関節が固まってしまう理由は、関節を一定期間、動かさないでいることです。捻挫や骨折などで、関節や骨を固定したことがある人は経験があると思います。固定を外したばかりのころは、今までより関節を動かしずらくなっていたはずです。これと同じです。

このように固まってしまった関節に強い刺激を入れることで、関節の可動域が広がります。

可動域を拡大させる目的はもう一つあります。それは体液循環の改善です。固まった関節の周辺は血液やリンパ液など体液循環が悪くなり、老廃物が溜まってしまいます。すると、筋肉が凝り固まったり、老廃物が神経を刺激して痛みなどの不快な症状を出します。また、血液には酸素や栄養が含まれているため、循環が悪くなると傷ついた細胞の回復が遅くなります。いわゆる自然治癒力の低下です。

このように関節可動域を改善させることは、体の動きだけではなく、痛みやコリの改善、治癒力の向上などの効果もあります。

ただ、もしこの関節可動域の拡大が目的であれば、ボキボキ矯正でなくても方法は他にもあります。例えばモビリゼーションという、関節を繰り返し揺り動かす方法でも可動域を拡大することが出来ます。

固有感覚受容器への刺激による効果1:筋肉が緩む

専門的な話になってしまいますが、固有感覚への刺激によって起こる反応がボキボキ音の鳴る矯正を行う最大の理由です。

そして、この理由を知らない整体師やカイロプラクターがたくさんいます。これが整体やカイロプラクティックで事故が起きてしまう要因の一つです。

固有感覚とは、関節の位置や動いている方向についての情報のことです。これは腱や筋肉についている固有感覚受容器というセンサーのようなものから筋肉や脳へ伝えれられます。

このセンサーの一つは腱紡錘(ゴルジ腱器官)と言い、筋の張りを常に監視しています。筋が強く収縮すると腱が引き伸ばされ、腱紡錘が反応します。そのまま筋肉が強く収縮し続けると筋肉が壊れてしまうので、それを防ぐために伸張反射(脊髄反射)(図1)が起こり、同じ筋肉に「緩めなさい」という命令が届き筋肉が緩みます。

例えば、床に置いてある100kgのバーベルを一気に持ち上げようと急激な力を入れた場合、それを持ち上げられるだけの筋力が無ければ、筋や腱はその負荷に耐えられずに壊れてしまいます。こういった怪我を防ぐための神経生理学的な作用です。

脊髄反射
図1

つまり腱を強く引き伸ばす刺激を入れると、伸張反射が起こり筋肉が緩むので、この反応をボキボキ矯正で意図的に起こして筋肉を緩めることが出来ます。

固有感覚受容器への刺激による効果2:姿勢が変わる

腱紡錘を含む固有感覚の信号は、脊髄を通って小脳(図2)へも届きます。小脳は筋の緊張をコントロールして姿勢制御をします。さらに、小脳は大脳の運動にかかわる部分とコミュニケーションを取り、運動の計画や筋肉を動かすタイミングなどの調節も行います。姿勢や運動に何らかの異常が見られるなら、小脳を無視することが出来ません。

小脳
図2

脳や小脳は常に固有感覚受容器から送られてくる信号を感知しています。しかし、これは固有感覚受容器に刺激が入るから出来ることです。もし固有感覚が送られてこなくなると、脳や小脳はそこの関節や筋肉の情報を認識することが出来ません。

人が目をつぶっても真っすぐ立てるのは体の様々な部分(足、腰、背中、肩、首など)から、その位置の情報が脳へ伝えられているためです。しかし、この情報がなくなると人は真っすぐ立つことが出来なくなります。

関節が固まってしまっているところは関節の動きが少なくなっているため、その関節からの固有感覚の情報が不足しています。すると、脳はその関節の位置や動いている方向を正確に認識することが出来なくなります。その場合、脳は情報があるところの関節の位置や筋肉の張りを調整して姿勢制御を行わなければなりません。それによって姿勢が崩れてしまいます。

ボキボキ矯正では固有感覚受容器に刺激を入れることで、今まで不足していた情報が脳へ伝わり、その情報を含めて姿勢制御を行うことが出来るようになるので歪んだ姿勢が改善します。

これがボキボキ矯正で姿勢が変わる原理です。決して骨の位置を動かして姿勢が整っているのではありません。

これは正しく刺激が伝われば姿勢が改善しますが、過剰な刺激はセンサーを壊したり姿勢を悪化させる要因にもなります。

まとめ

ボキボキ矯正は、関節可動域拡大と固有感覚への刺激による筋肉の弛緩と姿勢の変化の三つの変化を体に与えます。

この生理的作用を理解していない人がボキボキ矯正をしてしまうと、余計なところにまで刺激を入れてしまいセンサーが壊れて体を壊してしまことがあります。

YouTbeなどで整体師が矯正について話をしてたり、実際にボキボキ矯正をしているのを見ることがありますが、正直言いまして「危ないな」と思うことが少なくありません。だから、受ける方にもしっかりと知識を持っていただけたらと思います。気持ちよさを求めて受けるボキボキ矯正は、万が一が起きた時の代償としては大きすぎます。

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